チャッピーに改めて教えられた「移住」するということ

チャッピーとは、僕の麦酒工房前をいつも陣取っている茶虎の若い猫だ。

もっとも先についた名前はタイガというらしいが、僕は子猫時代に初めて会ったその日からチャッピーと呼んでいるし、彼も呼ぶと鳴くなり近寄ったりと反応してくれているからそれで良しとしている。

おはようチャッピー。たまに自宅から一緒に歩いて醸造所まで出勤する。

彼は自分で鳥や昆虫を狩ったり、朝ごはんに焼いた魚のアラやご飯の残りを地域の人からもらいながら生活していて、日中はほぼごろごろと平和にすごしている。彼の定位置は醸造所の入り口で、この辺りでごろごろしていることが多い。

この日も地域の誰かが置いたであろう食べ物を行儀よく食べていた。

様子を見届けながら工房の仕事を続けること1時間。外から猫の唸り声が聞こえてきて物々しい雰囲気がしてきた。外を確認すると、鳴き声の主はチャッピーだった。

外を見ると、見慣れない茶白の猫がこちらを見ており、後方で物陰に隠れながら怯え怒るチャッピーがいた。拡大すると、、、


後方のチャッピーが負の感情を持っているというのが、種族を越えてもはっきりわかる。

一方、さすらいの茶白はその様子を全く気にする様子もなくこちらを見ている。

敵意無く、ただそこにいるだけなのに何故チャッピーはそこまで彼を威嚇するのだろうか?

それは茶白が見たこともない湛江からの移住者だからである。六島の場合、移住者猫は先住猫からもれなく威嚇される。

この様子を見て真っ先に思い浮かんだのが自分だ。

おおよそ島の移住者である僕は、長い時間をかけて地域の人に助けられながら「できもしない」といわれていた醸造所を立ち上げた。商店も病院も警察も何もない島でこのようなことをすると、当然摩擦のような現象が起きる。しかし僕の場合、あくまで自分の体感であるが地域の方と立ち上がるまでの時間を長く共有できたため、この摩擦が少なく抑えられたと思っている。

ただ、普段六島に住まない人からしたら、久しぶりに帰ってきてこのような醸造所と飲み場ができていたらプラスマイナス両方の感情が生まれるだろう、と頭の片隅では考えていた。幸いにもほとんどそういった負の感情を向けてくる人はいないのだが、わずかに強烈な嫌悪感をもっているものも帰省者で存在するのも事実だ。

以前、浜のドラム缶で島の皆と暖を取りながら酒を交わしていると、橋のほうから

「わけわからん人呼ばんとってほしいわ」

というような会話が聞こえてきた。例の帰省者だ。その人物は島生まれで若くに島を離れているが、島での発言力が強い様子で、話す内容といえば自分や身内の自慢話か、誰がどの血筋で昔はああだったこうだったという内容だ。まあつまらない。音楽で例えるなら、しらふでシュランツテクノを延々聞いている感覚と表現できる。

外から積極的に観光客を呼んで島をアピールしているというのは紛れもなく僕なので、ああ聞こえるように嫌味を言ってるなとちゃんとわかるし、そういう場面が何度もあった。

言っておくが、僕はこの世帯に迷惑もかけたこともないし、挨拶は欠かしたことないし、悪意や暴力を放ったことは一度もない。

老い先短いこの人物だけがこのようなことを言っているなら簡単にスルーしてよいレベルなのだが、問題はこの思想が大量にいる孫にもしっかり受け継がれていること。

昨年、島の祭りをどう運営しておくかという住民会議が開かれた。

その時この孫が発言した内容に対して非常に強い憤りを感じている。運営に参加したこともない、神輿も担いだこともない。太鼓を打ったこともない。そんな人物が

「祭りに呼ぶ人間をちゃんと考えたほうがいい」

とのたまった。この祭りは過酷だ。神輿はしんどい、そして太鼓も演目が多く覚えるのに苦労する。おまけに六島の関係者はほとんど関西圏に居るのでこのような過酷な神事には徐々に足が遠のいていっている現状。それを打破するために、そして交流人口を増やすために僕はこれまで島に来てくれて、地域に思いを通わせた人物に声をかけて祭りに参加してもらっていた。

そして太鼓には娘が参加してくれていた。一から覚えるのは本当に過酷だったし、当時小学校1年だった娘は泣きながら練習していた。

そしておおよそ島にゆかりがない人物が島の行事に汗をかき、ボロボロになるまで身をささげてくれているのである。それが今の祭りの現状、もっと言えば六島の現状だ。もちろん地域の方もそれを歓迎してくれている。そうった取り組みに対してこの発言はどうしても許せなかったし、目から火花が散った感覚をよく覚えている。怒りを抑えながら「意見があるなら別で話し合おう」と提案したが、特にないとのこと。なんやこいつ


これまでの過程をしっかり見てくれていた人物が問題提起する分には申し分ないが、おおよそかかわったことのない人間が偉そうにこれをいうのはどうなんだろうか?

もう一度断っておくが、僕や、神輿を担いでくれた人たちはこの一家に何一つ迷惑をかけていないし、そもそもこの一家は長らく祭りに参加していない。おおよそ自分の人間関係の範囲外の人間が自分のテリトリーであろう島で活動していることに嫌悪感を抱いているだけなのは明確だが、明らかに酷いと思うし、関西に出て富と教養を得たのは、田舎根性を炸裂させるためなのかと言われてもおかしくない次元だ。

いけないいけない、タイプするたびに怒りが増してくる。

よし、外を見よう。。

チャッピーの顔が穏やかになっている。

そして何やら猫が増えている。5か月前に移住してきたキジトラの「どらちゃん」もいた。

しばらく見ているとチャッピーが、どらちゃんの頭コツンとするあいさつを受け入れていた。

どらちゃんもここ最近まで周りの猫から威嚇され続けてきた。やっと地域に受け入れられたんやね。

ふう、すこし落ち着いてきた。猫たちよ、君たちにまた一つ学ばせてもらったようだ。

見慣れぬ移住者は何となくムカつく。でも時間を共有すればそれがすこし解消される。それが生物として共通しているということ。しかし中にはどうしてもそれを受け入れられない存在もいるということ。

僕は自分の居場所を守るために人を傷つけたり、居場所を奪いこともしないし、するつもりもない。

悪意をむけられていても自分を信じ、支えてくれている周りに感謝してコツコツ生きていこうと思う。

チャッピー、今日もありがとう。

六島浜醸造所 Mushimamhama brewery

岡山県最南端の醸造所。そこは人口60人、島の面積1平方キロメートル。小さな島には日本が忘れかけていたライフスタイルや知恵、人のつながりがある。そんな故郷に惹かれ、大阪から移住した男が醸す麦酒醸造所。

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